【旅行記】諏訪のサンジュリアン邸を訪ねて <07>:5月19日 (金)「男たちの時間」 



あらすじ〜日本酒ブログの筆者であるオレ (moukan1972♂) と妻 (moukan1973♀) の二人で、当ブログの名物読者であり、筋金入りのワインコレクターでもあるサンジュリアンさんの御宅を旅行がてら訪問した際の、心のアレコレと現実のモロモロを、特に旅行好きでもないオレがそこそこ本気を出して書き綴った旅行エッセイ。




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EP-07:5月19日 (金)「男たちの時間」

▪︎悪事はいつか必ずバレる。





 今は一体「何時何分」なのだろう。ワインは日本酒とは〝酔いのGroove〟が異なるので、そこまで訳が分からなくなっているという自覚はなかったが、夕方4時に始まった宴はそのままシームレスに夕食へと雪崩れ込み、女たち1号はお清めに向かい、女たち2号が別室の暗闇で布団と愛し合っている今、オレがそれなりに酔っていることだけは確認するまでもない事実だろう。

 どこかの時間帯で瞼のシャッターが緩やかに閉まりかける動きを見せていたオネムリアンくんは途中から水を飲み出して──ちなみにサンジュリアンさんは酔いが一定量回るまで基本的に水と一緒にワイン類を飲まない立場であるが、いざ宴が始まると、彼とは対照的に常に水を飲みながら酒を飲む我々の傾向を「シャン祭り」の時に知ってか、すぐに「あなたたちは水を飲むんでしょ?」と気づいて和らぎ水 (そのまま飲める美味しい高原の水道水) を用意してくれたことは彼が見せる象徴的なマメさの一面としてここで責任を持って紹介しておきたい──、そうして酒に関しての自分自身の限界と管理方法をよく心得ているカンリリアンとしての矜持を見せてからは、気づくと、いつものワンパクリアンとしての蘇りの証を目の奥の輝きにだけでなく、その表面にもはっきりと照らしていた。

 そんなカガヤキリアン氏が「男たちだけのお楽しみタイム」を荘厳に彩るために持ってきたのが、昼間にセラーの湖で釣り上げた、本日の酒の中で一番コーキュー (高級) な酒「ピエール・ペテルス レ・シェティヨン2002」だった──「これ確か14本くらい買ったんですけど、一人で飲むには勇気がいるので、まだ開けたことないんですよ」──買ったら飲みましょう、手伝いマスカラ。





◤Pierre Peters / ピエール・ペテルス キュヴェ・スペシャル レ・シェティヨン ブリュット ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ 2002 (※写真のクリック先は2004年の商品ページです。)
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 基本的に白いシャンパーニュはシャルドネ (白ブドウ) とピノ種 (黒ブドウ) を原料とするワイン同士をブレンドして造られる。NV (ノン・ヴィンテージ) 系のモノは異なる収穫年のブドウで造った様々な熟成状態のワインを造り手が独自に調合しながら仕上げる。ラベルに収穫年が記載されているヴィンテージ商品は単一年のブドウだけを原料としているが、それでも複数種類のブドウを使用するのが一般的だし、かりに「ブラン・ド・ブラン (白100%) 」や「ブラン・ド・ノワール (黒100%) 」のようにで白黒単一であったとしても、所有する幾つかの畑で獲れたブドウを併せて原料とする。それゆえ、この「レ・シェティヨン」のように、単一種 (シャルドネ100%) 、単一ヴィンテージ (2002) 、単一特級畑 (レ・シェティヨン) だけを使ってシャンパーニュを造ることは最高の贅沢とされるのだ。

 それでもピンと来ない人は「オレンジジュース」を思い出してみるといい。もしもその1缶に使用されているミカンが、最高級「せとか」を作る、愛媛県内でも最高の立地にある一番いいとされる単一畑のみで獲れた、しかも最良の収穫年の「せとか」だけを使用して造られたとしたら──そういうことである。

 オレが「これは完全に泡のある白ワインですね。いわゆるシャンパーニュのような味も香りもしません」と言うと、シャンジュリアンさんは「よくシェティヨンを評して『泡つきのモンラッシェ』と言われてることがあるんですが、それがわかります」と言った後に「これ、ステレンスタンクで仕込んでるので、本当は樽の香りはしないはずなんですが、なんか樽みたいな香りありますね。おそらく果実由来のミネラル成分がこういう香りを出すんでしょうね」と付け加えた。たしかに日本酒でも、別に木桶などで仕込んでもいなければ、他の商品で木香のあるような銘柄でなくとも、なぜか樽のような香りのするものがあり、これもそういうことと何か関係があるのかと思った。

 しばらく二人であれこれ「レ・シェティヨン」について語り合っていると、やおら諏訪の巨人は立ち上がり、表情だけは小学五年生のような小僧フェイスをチラつかせて、イヒヒと手をこまねいた──「モーカンさん、ちょっとちょっと」──黙ってついて行くと、納戸の中で剥き出しになってる階段裏の床下にこんなものが・・・。






 謝ンジュリアン氏:「いやあ〜最近うちの家内のヤツにバレちゃいましたよ〜」
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 ▲真冬は「−3℃」の天然氷温庫になるそうだ。


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 ▲「篠峯26BYトリオ」も御登場。


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 ▲デカい図体を屈めて次々とノマネコンティな日本酒を引き上げる。このへんは全て28BY。



 オレが「サンジュリアンさん、◯◯◯◯の27BYありますか!?」と少し興奮気味に訊くと「たしかこのあたりにあったはず・・・違うか・・・ん? これか?・・・違うな・・・あったあった、これだ」──

 買いました。





◤篠峯 田圃ラベル Azur 山田錦 純米吟醸 無濾過生原酒 28BY
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 ▲もはや秘密の意味を失った秘密基地2号から戻ると、なぜか呑んでる「篠峯」の28BY。つい最近開けたらしく台所の冷蔵庫から持ってきたが、それまでセラー温度で管理されていたからか、いくぶんオレが呑んだモノよりも味幅にふくよかさを感じた。これだけワインやシャンを飲んでも別に普通に飲めるんだから、一体どんだけ「酸、足りてるんだよ」という話ではある。



 そのうち女たち1号様がお清めからお戻りになった。細かい時刻は覚えてないが、22時になろうとしている頃だったろうか。さすがにお暇しなければならない時間帯に突入していたので、部屋の仕切りが外され小さな宴会場ばりに横に伸びた広い和室でミイラになりかけているmoukan1973♀を起こしに行くと、その暗闇の中で独り布団を頭まで被って天井を向いたまま微動だにしないその様を見て、本当にオレは女王の墓でミイラを発見した考古学者のような気持ちになった。

 女たち2号の唯一の特技であり自慢は、決してイマドキの甘くてクドい日本酒を飲んで「甘いな!」とダメを出すことではなく、眠ければいつでもどこででも──たとえ布団などなくても──いとも簡単に寝れることである。それでも年に何度か「昨日の夜はなかなか寝付けなかった」とボヤく朝もあり、オレが「 〝なかなか〟って何分?」と訊くと「10分か15分?」とミイラ女は言う。彼女は全国の不眠症患者に今すぐにここで謝るべきだろう。






◤富士見高原 広原温泉 八峯苑鹿の湯 (※写真は翌日の朝に撮影したもの。)
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 それからバタバタと帰り支度を済ませ、サンジュリアン夫人の運転する車でホテルまで送ってもらった。チェックインは昼間のハイキング帰りに済ませてあった。サンジュリアンさんも一緒に送ってくれたので、車内には少し不思議な空気が流れていた。この不思議な感覚の正体は翌日に強く実感することになるので、その話はまた次回に持ち越すとしよう。



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 ▲寝酒用に頂いた白ワインの残り。気前の良さがスパークリングしたハジケリアンさんは「レ・シェティヨン」を持っていくかと言ってくれたが、さすがにそれは遠慮した。ただし、そのとき横にミイラになる前のミイラ女がいたとすれば、間違いなく彼女は「いいんですか〜?」と一度だけ礼儀で遠慮した1秒後にそれを笑顔で受け取っていただろう。



 ホテルは公共施設のような雰囲気を持つ建物と内装だったが、まるで学校や近所のコミュニティーセンターにお泊まりしている感覚があり、その小さな郷愁が彩る透き通ったセピアカラーには不思議な癒し効果があった。すでにフロントは消灯しており、露天風呂も貸し切り状態で、昼間のハイキングで痛めた膝の怒りをなだめるのと飲みすぎた酒を抜くには素晴らしく有意義な時間をオレに用意してくれた。ただ少しばかり残念だったのは、オレの不機嫌な膝は、これくらいのことでは簡単に笑顔を取り戻してはくれないということだった。

 何も書かず、何も思い出さず、翌日の10時にサンジュリアンさんがキッチリ迎えに来るであろうことだけを僅かなプレッシャーに感じて──あのお方は10時に来ると言ったら必ず10時に来るだろう──、とにかく今は早く寝ることだけを考えて、気づいたら寝ていた。


moukan1972♂



つづく



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※更新スケジュールは未定ですが、記憶の永続性には限りがありますので、少しずつでも毎日UPする予定です。


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