【旅行記】諏訪のサンジュリアン邸を訪ねて <02>:5月19日 (金)「再会」 



あらすじ〜日本酒ブログの筆者であるオレ (moukan1972♂) と妻 (moukan1973♀) の二人で、当ブログの名物読者であり、筋金入りのワインコレクターでもあるサンジュリアンさんの御宅を旅行がてら訪問した際の、心のアレコレと現実のモロモロを、特に旅行好きでもないオレがそこそこ本気を出して書き綴った旅行エッセイ。



 現地もこの快晴!
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 ▲電車は予定通り目的地に到着。2時間ちょいなので、意外に近い。 (photo:004)




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EP-02:5月19日 (金)「再会」

▪︎すっかり大事なことを忘れていた。





 さて、ここからは記憶力との闘いである。闘う意志がないのなら話をでっち上げればいいわけだが、あいにく真偽の判定人が最低でも二人はいるので、そこまで大きく話も作れないと思う今は5月21日 (日) の13時35分──つまりは帰りの電車の中である。(オレは行きと帰りの電車の中でたった二度だけ文章を書いたに過ぎなかった) 。

3105ccbced4c9f455b99f5e53a174350_600.jpg 人がまだ馬車で移動していた時代の優雅な長期旅行ならば、日が沈む前には宿に戻り、ひとしきり荷物を片付けたら (片付けさせたら) 、まだしばらくは訪れない夕食の前に軽くペンを取ることも可能ではあっただろう。あるいは早めの夕食を済ませ、テレビもネットも下手すりゃ風呂もない環境の中で、窓から差し込む柔らかな月明かりに感化されながら静かに昼間の想ひ出に浸り──月明かりに照らされた想ひ出たちが昼間は隠していた僅かばかりの秘密をそっと明かしてくれたかもしれない──、そうしてオレはそこに文学的な添加物を振りかけて、横で寝ているmoukan1973♀に隠れて、宝石のような言葉で燦めく、その麗しの恋文を、どこぞの愛人に書く時間すらあったかもしれない。しかしながら今は2017年の日本の5月で、車もあるしカーナビもあるしスケジュールも過密で──しかも運転手サンジュリアンは根っからの飛ばし屋で、


 そんな蕩けるような時間は一瞬たりともやって来なかったのである。



サンジュリアン旅行プランメール1
 ▲泊まるホテルも全てコンダクター・サンジュリアンにお任せ。行き帰りの切符の早割情報までナビゲートしてもらいました。


サンジュリアン旅行プランメール2
 ▲地理に疎い我々はこれを読んでもGPS的に自分たちがどこをどう移動しているのか事前にイメージすることはできなかったし、それを地図でわざわざ確認するという風情も、また持ち合わせていなかった。






 予定通り電車が目的地に到着すると、サンジュリアンさんが徒歩で迎えに来てくれていた。4月以来の再会である。実は「春のシャン祭り」よりも先に今回の旅行の予定は決まっていたわけだが、すでにお互い現実世界で顔を合わせているので、いちいち堅苦しい挨拶の必要がなかったことは結果的に大正解であった。

 このあと、コンダクター・サンジュリアン氏が事前に組んでくれた「昼は軽く蕎麦でも食って、それから往復約二時間の軽めのハイキング、夕方4時くらいにうちに来てシャンで乾杯しましょう」というタイムスケジュールは〝ほぼ〟予定通りに消化されていった。moukan1973♀などはそもそものタイムスケジュールすら事前に細かく把握する暇もなかったので、これから自分がどうなるのかまるでわからない小さなサスペンスを常にダブルオッパイ (両胸) の中に抱えているようだった。

「シャンはいつ飲めるんだっけ?」「チェックインは車で送ってくれるの?」「明日の夜はうなぎだからシャンは今日だけだっけ?」「で、明日はどこに行くんだっけ?」──三人姉妹の真ん中であるmoukan1973♀は、基本的にお任せキャラ全開なので、そばで誰か仕切ってくれる人がいれば、文句一つ言わず黙って提案されたスケジュールに身を委ねる。職場ではそこそこ偉い立場のようだが、それ以外で自分から何かを提案したり仕切ったりすることは全くない。高校時代から付き合いのある女友達と3人で年に何度か会って食事をするが、自分から行きたい店を提案したことは一度もないそうだ。

「なんか往復2時間コースの軽いハイキングもするみたいだけど、高尾山より楽勝で、サンジュリアンさんの3歳の孫もGWに登ったみたいだよ」とオレが言うと、すかさずサンジュリアン隊長は「高尾山の七掛けくらいですよ」と補足した。ちなみにmoukan1973♀は年に一度、職場の仲間と高尾山ハイキングをしている。



サンジュリアン旅行プランメール3



 あてにしていた駅前の蕎麦屋が休みだったので、少し離れた店に案内してくれるようだ。早速プランBの発動ではあるが、そこに迷いはない。オレもそうだが、彼の頭の中には常に「だったら」という選択肢の枝がたくさんあるようだった。

 オレたちは車を取りにサンジュリアン邸へと向かった。コメント欄での交流がはじまって間もない頃、彼が「長野の標高950mくらいのところに住んでる」と言っていたので、てっきり林の中の屋敷にでも住んでいるのかと勝手に思っていたが、実際には視界良好な住宅地の一角にその秘密基地はあった。まさかここにあんなものやこんなものが眠っているとは、他人であれば、宅急便の配達人以外、誰も気づきもしないだろう。

 遠くで美しい山々の景色が広がっているものの、今歩いているこの場所が標高950mだとは思えないほど、このエリアはキレイに区画整理されている。たしかに日差しの熱に比して、空気はひんやりカラっとしていて気持ちがいい。都会にいると吸い込む空気の中に様々なノイズ──化学的に有害なモノだけでなく人の怨念や苦悩まで詰まっているような気がすることがあるが、さすがに自分が今ピュアな何かを身体に取り込んでいることを実感できる。「夏でも夜は涼しいので寝るときにクーラーは必要ないです」──その代わり、冬は雪かきなど、大変なことも多いようだ。

 ホテルのチェックインはハイキングの帰りなので、スーツケースは車の荷台に積んだ。買ってきたパンとチーズだけ渡すとサンジュリアンさんはそれを持って我々をガレージに残したまま一度家の中に入り、すぐに戻って来た。一つ一つの動きに熟年特有の優雅さはなく、本人が「オレはせっかちだから」と言うように、常にキビキビと、そして突然に急カーブを描くように思いつきで動き出す元気なアラ還オヤジ──それがサンジュリアンさんである。

 このまますぐに車で蕎麦屋に移動するのかと思っていたら、そうか、オレもなかなかペースを掴めぬまま、大事なことを忘れていたことに、彼の次の一言で気がついた。

「見ますか?」

 キング (サンジュリアンさん) は少しはにかんだような、誇らしそうな、まるで小さな子供が近所の茂みでとっておきの秘密基地候補を見つけてそれを仲間に案内する時のようなほころんだ表情を浮かべて、ガレージのすぐ横にある、その何でもないドアを奥へと押し込んだ。


moukan1972♂



つづく



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※更新スケジュールは未定ですが、記憶の永続性には限りがありますので、少しずつでも毎日UPする予定です。


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