【旅行記】諏訪のサンジュリアン邸を訪ねて <11>:5月20日 (土)「double」  



あらすじ〜日本酒ブログの筆者であるオレ (moukan1972♂) と妻 (moukan1973♀) の二人で、当ブログの名物読者であり、筋金入りのワインコレクターでもあるサンジュリアンさんの御宅を旅行がてら訪問した際の、心のアレコレと現実のモロモロを、特に旅行好きでもないオレがそこそこ本気を出して書き綴った旅行エッセイ。



 「日本一美しい白樺群生地」とHPには書いてある。 (画像クリック)
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 ▲まるで動物の群れのような八千穂高原の白樺林。




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EP-11:5月20日 (土)「double」

▪︎女という生き物の持つ至高の能力。





 まるでセラー内の冷気のような姿の見えない空気のベルベットに包まれながら──そればかりか林とセラーには〝木の香り〟という共通点さえあった──食べ過ぎた朝食の消化が促進されたことは、たとえ現実ではなかったにせよ、主観として感じられる小さな世界では、立派な事実であった。「軽い!」と思って心の中で陽気なステップを踏んではみるものの、現実世界の地面に着地した両足から激しいノイズ音楽のように伝わるのは、膝と足の甲の赤い痛みと、少し不便なバランスに歪曲された下半身の重さである。

DSCN9998.jpg 幸いだったのは、この観光が、春の季節、全国の小学一年生たちが朗らかに歌を口ずさみながら──あるいは、そのとき一番流行っているギャグや何かの決め台詞を繰り返しながら、ささやかだが大切なミッションを乗り越えた先のお弁当とオヤツを目指して、その愛らしい小さな歩幅を何回転もさせて突き進む「徒歩遠足」ではなかったということだ。

 大人と子供との大きな違い──それは、我々大人が常に金と武器を使うという点にある。この場合で言えば「車」という武器を使う。とにかくほとんどの時間が「車中」で費やされたことはオレにとって幸運だった。もしも近所の小学生たちと一緒に長い道中を徒歩で共にしていたら、おそらく無垢で残酷な天使たちにこう励まされていたかもしれない。

おじさん、がんばって歩かないと、オヤツ食べれないよ?」──バカを言うな。大人はな、好きな時にいつだって煎餅も食えるし酒だった飲めるんだぞ? おじさんね、うまい棒なんか30本まとめて買うんだぞ。食品庫の中は年がら年中オヤツだらけなんだぞ。いいだろ〜。






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 旅行の初日、サケジュリアンさんの代わりに奥様が我々夫婦をホテルまで車で送ってくれたとき、そこにサンジュリアンさんも同乗したわけだが、このほんの短い夜の疑似ドライブの最中に得た不思議な感覚の正体がわかったのは、2日目の観光における、どこかのタイミングの、車中であった。この日にクリアするべきスタンプラリーは全部で4箇所であったが──「白駒の池」「黒澤酒造」「諏訪大社」「岡谷の鰻屋」──、改めて地図上でドライブコースを俯瞰すると、それぞれがそれなりに離れた位置にあることがわかる。つまり、我々はその時間のほとんどを「車中」で過ごしたわけだ。

DSCN7431.jpg すると気づくことがあった。それは、このドライブ観光が「単なる熟年夫婦と中年夫婦のダブルデート」であるということだ。自慢じゃないが、オレ自身も──おそらくmoukan1973♀自身も、人生で初めてのダブルデートではないだろうか。大人のカップル (夫婦) が互いの子供の存在──うちに子供はいないが──を介さずに連なってドライブすることは、なかなかに珍しい体験である。窓から見える代わり映えしないミニマルな美しい景色を見ながら、これが「人生初のダブルデート」かと思ったら、なんだか妙におかしかった。そして、時折思う──膝と足の甲が痛い・・・。

 スワジュリアンさんが「異なる文化圏」と表現した〝あちらの国〟は八ヶ岳を超えた麓にある。実際、これから向かう「黒澤酒造」のHPには「北八ヶ岳麓・千曲川最上流の蔵元」と書いてある。このエリアが「異なる文化圏」かどうかは分からないが、急に道も景色も見慣れた田舎の町並みに変わっていたことは事実である。まず道幅が狭くなり、信号や横断歩道や看板類も突然増え、活気はないが雑多な雰囲気が漂う。もしも旅行のスタート地点がここであったとしても、やや大きな声と共に背伸びをしながら空気を頬張り、都会との大きなギャップを感じて、レッツな高揚感に包まれることはなかったとは言えるだろう。

 ツアージュリアンさんが「黒澤酒造」を観光コースに組み込んでくれたのは、もちろん、彼の家から車で行けなくはない場所にそれがあったからだが、たまたま旅行前の3月にオレが「黒澤 生酛 純米 直汲み生原酒 Type7 28BY」という酒を飲んでブログで絶賛したからである。蔵見学は行っていないようだが、近所に直売所もあるという事前リサーチを得て、それで本日2つ目のスタンプラリー候補になったわけである。






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 ▲常に先頭を行くボスジュリアン氏と奥様。蔵はこのすぐ近くにあるが、写真を撮るタイミングがなかった。



 こういう場所に来ても特に心がときめかないのが都会人ならではの文化的不感症の悲しい病状の一つである。まず第一に、一部の特約店のみで展開されている「Type7」のような──つまりはオレが本当に飲みたいタイプの「黒澤」の酒はここでは売られていないし、実際、売り子のお姉さんは「Type7」の存在すらよくわかっていないようだった。

 黒ジュリアンさんがボソっとオレの耳元で「わたしもワイナリーなんかで何度か試飲したことありますけど、まあ、別に美味しいと思ったことはないですよ」と言ったとき、逆にオレの方が安心したことは、一応ここに書き留めておこうと思う。ただ、オレの隣のいるケツのデカい中年女は、いろいろな酒がただで飲めることが素直に嬉しいようではあった。これは女という生き物の持つ至高の能力 (楽しむという気持ちを楽しむ能力) ではあるだろう。



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 ▲「直汲み? それって食べれるですか?」ばりに「直汲み」なんか、どこにも売ってない。もしもオレが超初心者なら「もしかしたらType7が買えるかも・・・」などと思ったりもしただろうが、残念ながら今やそんな気は最初から1%も心に描かなかったし、この絵面はまさに事前の予想通りすぎて、なんだか少しメランコリックな気分になった。つまり、地元の黒澤ファンも含め、ここを訪れるほとんどの人が「Type7」の旨さを知らないのである。


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 ▲併設された喫茶店の対応も兼ねる行ったり来たりの忙しないお姉さんが「地元のおじ様たちに一番人気のお酒です」と紹介してくれたのが、いわゆる「地元の普通酒」というジャンルの、我々のような日本酒ラヴァーが最も口にしないタイプの安酒だ。そもそも田舎では1800mlが3,000円以上もする高価な酒はまず売れない。


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 ▲数種類の酒が試飲できる。こういう時、必ず蔵元は「大吟醸」などの高価な酒を薦めたり誇らし気に説明したりするものだが、不幸な事に我々は日頃からイイ酒をたらふく飲んでいるので、そう滅多な事では驚きはしない。むしろ「田舎の箱入り大吟醸」こそ一番どうでもいい酒だと思ってるくらいで、このジャンルの酒はどうしても「蔵の個性」が出にくいという側面がある──品評会で金賞を取るための酒なので、どれも似たような味と香りの酒になる。


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 ▲そんな中、オレが普段飲んでいるような「黒澤」に最も近いタイプの味わいなのが、この「特別純米 井筒長」だ。ここには「黒澤らしい赤い果実」がバッチリ現れていて、買ってみてもいいと思わせる酒ではあったが、荷物になるし、家に「黒澤」がこのときは7〜8本ほどあったし、スルーした。でも、これは普通に「黒澤」を感じれる佳酒。ちなみに「黒澤」は海外輸出を睨んで付けた銘柄名らしい。要するに「世界のKUROSAWA」にあやかろうというわけだ。


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 ▲結局オレがお土産に買ったのは「黒澤の仕込み水」という、マニアを気取った地味な商品と「白樺樹液」という、これをコーヒーなんかに入れると気分次第で美味しく感じたりするらしい魔法アイテム。仕込み水は秋に「Type7」を開けるときの和らぎ水にしよう。サンジュリアンさんは粕漬けを買っていた。






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 ▲直売所の隣にある「黒澤酒造」が経営する喫茶店。サンジュリアンさんは「白樺樹液入り」のアイスコーヒー、オレは普通のアイスコーヒー、奥様は甘酒、moukan1973♀はブレンドを頼んだ。



 オレたちが手土産に持参した少し多めのパンは、それが次の日の朝食まで視野に入っていたとしても小食の熟年夫婦には多すぎたようで、残ったものを小さく切って奥様がオヤツ代わりに持参してくれていたが、昨日の夜も今朝も食べ過ぎた我々にとっては、これが適量の昼食代わりになった。

 奥様は三度か四度「お店の人にことわった方がいいんじゃない?」と言ったが、サンジュリアンさんは「別にいいよ」と気にする様子もなく、横のmoukan1973♀も普段から似たようなことをしているので──そればかりか、休日に一人で新宿や池袋に買い物に出かけた際に、値段だけはつまらなくない小さな菓子パン (ドライフルーツ系) を横文字の店で買ってドトールやタリーズに持ち込んでチマチマ食べること自体が半ば趣味のようなものなので──、内心では<別に大丈夫ですよ、それより早く食べたい!>と思っていたはずだ。結局、我々はそこらの中国人観光客のように、持ち込んだ少量のパンを4人で分けて食べた。






 こうして熟年夫婦と中年夫婦の子供抜きのダブルデートは、次なる目的地「諏訪大社」を目指す。相変わらず膝と足の甲が痛いが、それを口にしても誰も痛みは共有できないし、他の3人はそこそこ元気そうなので、オレは一人で密かに苦しんでいた。ただ、もうすぐ夕暮れも近づく。そのとき、我々4人の歩く姿が地面に正しく投影されていたとしたら、そこに一人だけ老人がいると、少なくとも空のカラスたちにはそう写るだろう。オレは人知れず腰を曲げて、完全に伸びない膝をくの字にして、のそりのそりと、カラスの目を気にしながら歩いていた──わけでは必ずしもないが、どうして人は空を飛べない!?と思ったことだけは事実である。ううう、お膝の折れた堕天使。



 


moukan1972♂



つづく



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※更新スケジュールは未定ですが、記憶の永続性には限りがありますので、少しずつでも毎日UPする予定です。


Comment

Name - moukan1972♂  

Title - To 諏訪ジュリアンさん



毎度です。

こっちは全然雨降らないですよ。そして連日の30℃超えです (夜も熱帯夜つづきで早朝から暑いです) 。連休中に「原宿〜表参道」方面に出掛けますが、人も多そうだし、ヤバイですね。


──今日仲間と奥蓼科の滝巡りに行ったら、途中から雨に降られ乙女の滝 見ただけで途中引っ返して来ました。結構濡れたです

今チラっと検索して写真を見てますが、こりゃ天気が良ければ最高でしょうねえ。御射鹿池もなかなかのロケーションですね。


──では次の諏訪大社編 待ってます。

連休中は逆に時間ないですが (酒の記事も溜まってる) 、なんとかラストまで書き上げますよ。そのうち夏も終わりそうですが、案外、覚えてるもんですね。ま、覚えてることしか書いてないという話なんですが (笑) 。

2017.07.14 Fri 18:04
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Name - 諏訪ジュリアン  

Title - No title

今日仲間と奥蓼科の滝巡りに行ったら、途中から雨に降られ
乙女の滝 見ただけで途中引っ返して来ました。結構濡れたです。
快晴な日を選んで来週リベンジすることに!
結局、途中セブンで買ったおにぎり2個家で食べてお終い。
行く予定だった 東山魁夷 の絵で有名な御射鹿池 も青空の下でないとね。

https://encrypted-tbn0.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcRPy_vbMfz0hJIwNjzMJKsKdu5Cnr9WgYZAol9ooCAGEZYxkuT1-FFkJ7Rp

家に帰って来たら、大雨警報が出て二度ビックリ、
でも、今は青空、梅雨の天気は読めないです。

では次の諏訪大社編 待ってます。
2017.07.14 Fri 15:36
Edit | Reply |  

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